農業を通して自分が学んできたことや経験したことを地域に還元していきたい。[SENTE in AKITA/秋田県秋田市]

2023.04.02

生産者とのつながり vol. 3

沢田石 武瑠(SENTE)

秋田県秋田市

沢田石 武瑠(SENTE)

【つながり 〜通年の季節野菜〜】
秋田県秋田市5代目農家
幼い頃から農業と共に生活をおくり、東京農業大学大学院を経て就農。秋田の豊かな天然資源を活用した秋田でしか作れない野菜を生産し、秋田で25年ぶりとなる毎日新聞農業記録賞最優秀賞を受賞。
毎年冬には日本全国の優れた農家のもとで修行し、究極の美味しい野菜を追求。好きな野菜はナスと九条ネギ。
https://sente-akita.com/
https://www.instagram.com/takeru_sente/

農業を始めたきっかけは?

元々祖父母が農家をやっていたので、幼い頃から春は種まきとか秋は稲刈りとか農作業に触れて生活していました。その頃から何となく自分は将来的に農業を仕事にするのかなと思っていました。

ただ、農作業をする祖父母の姿を見ていて、年中休みが取れず大変そうだなとも感じていました。
頑張りすぎて体を壊してしまった祖父を見て、これからの農業のあり方を変えられないかと模索していた時、「戦略的農業経営」という本に出会い、当時は農業について何も知らなかったので、赤ペンで線を引き付箋を貼り、少しずつ探りながら読みました。

この本には、積極的にチャレンジしている農家さんや、しっかり儲けている農家さん等、自分が知らない農業の形がたくさんあることが書かれていて、ものすごく農業に興味が湧いてきました。
本の著者「渋谷先生」についても調べてみると今は東京農業大学にいらっしゃることを知り、自分もその農大に入学して農業の勉強を始めたのがきっかけです。

農業を始めて思ったことや感じたことは?

先ず、現実の厳しさを痛感しました(苦笑)。
実際に種を蒔くまでには土作りや、それぞれの野菜に適した工程を経る必要があるのですが、それを大学で学んだ理論通りにやってみてもいいものができるわけでもなく、この土地に適したものを見つけないと美味しいものはできないということを知りました。

秋田に戻り実家の畑を手伝いつつ、秋田市園芸振興センター(自分の野菜を作りながら2年間研修できる機関)に通っていたのですが、そこで販売という大きな壁にもぶつかりました。

いい野菜ができても買ってもらえない、自分の自己満足で終わってしまう、どうすればお客様に自分のいい野菜を届けられるだろう、どうすれば手に取ってくれるだろうと考えた時に、屋号やブランディングの重要性を感じて、1~2年色々考えた結果できたのがこの屋号とロゴです。

ちなみにSENTE(センテ)の意味は?

秋田から農業界に向けて“先手を打つ”という意味と、一文字ずつにも意味があります。

S=Specialスペシャル(特別な)
E=Ecologyエコロジー(生態学・自然環境)
N=Naturalナチュラル(自然の・天然の)
T=Technologyテクノロジー(科学技術)
E=Eachイーチ(それぞれ)

という掛け合わせ文字で付けた名前です。

家業を継いで思ったことや感じたことは?

元々細々とやっていた農家だったのですが、祖父母がかなり頑張って経営を拡大して一時期は法人化するまでに大きくなり、JAの組合長も務めるほどの大きな農家になりました。それもあり、自分が農業を継いだ時も、自分は武瑠という名前があるのに周りからは、ずっと「しんえいさんの孫」と、自分の名前を呼んでもらえたことがなく、それが本当に嫌ですごく辛い時もありました。

そんな中、祖父が体を壊して引退してしまったので、そのタイミングで祖父母が残してくれたいいところは残しつつ、変えるところは変え、自分のブランド「SENTE(センテ)」を打ち出し始めました。

最初は、その祖父母の名前の重みをプレッシャーにも感じましたが、そのプレッシャーには負けず、自分には「SENTE(センテ)」というブランドがある!という想いのもと頑張ってきた結果、SENTEさんの野菜美味しいよねと言ってもらえるようになり、徐々に手ごたえを感じられるようになってきました。

自分の中で可能性を感じている看板商品を三つ選ぶとしたら?

やはりウチの看板商品はナスです。
自分が農業を継ぐ際に、どんな野菜を作ろうかなと考えていた中、最初にたどり着いたのがナスでした。栽培方法によっては収穫量も上がり、黒いダイヤと言われるほど意外とお金になる野菜なのです。

自分自身もナスの育て方はただ支柱を立てて植えればいいと思っていたのですが、勉強すればするほどナスはこんなに奥が深い野菜だということを知りました。さらに勉強と施策を繰り返したところ、秋田での茄子収穫指標の約10倍の量が採れたんです。それを体験した時にこれは可能性があると感じ、ナスをもっと極めたいという想いが生まれました。

二つ目はトウモロコシです。
健一さんと最初に出会ったきっかけもトウモロコシでしたね。美味しいって言ってくれて嬉しかったです。ただ、野菜は自然相手なので天候や様々な要因に左右されてしまいます。今年もSENTEのトウモロコシを食べたい!という皆様からの声にお応えできるように、美味しいトウモロコシを作っていきたいと思っています。期待が大きい分、プレッシャーを感じる野菜でもありますが(笑)。

三つ目は九条ネギです。
秋田は長ネギを日本一食べている県なので、色々な葱を勉強しに行きました。どれも規格が揃っていてきれいで美味しいのですが、何か物足りなさを感じました。
そこで改めて九条ネギを食べたとき、甘くて香り高く、これをSENTEのいい土で作ることができたらもっともっと美味しいものを秋田の人に届けられるのではないかと思い作り始めました。

九条ネギを作るのにはもう一つ理由があります。
それは秋田の新規就農者の7〜8割が10年後には農業を辞めている現状があります。どうすれば成功するのか、儲かる農業とは何かと悩んだとき、モデルケースとしての存在がいなく、何をすればいいか分からずに辞めていく人が多い中、自分がモデルケースとなり儲かる農業を提唱していきたいからです。収入が安定してないと新しいことにも挑戦できません。

この九条ネギは、販路さえ確定すれば収入の少ない秋田の冬の農業の、素晴らしいビジネスモデルになると思います。“先手を打つ”ではないですが、その先駆けになれればと思っています。

農家としてのこだわりは?

とにかく美味しいものを作りたいという強い想いです。

例えば農薬や化学肥料を使わないという挑戦もしていますが、美味しくないと意味がないと思っていて。無農薬・無化学肥料で美味しいものが作れたらそれはそれでいいのですが、その方向に舵を切ると経営が安定しなくなります。

今、自分ができる範囲での最大限の美味しい野菜を作るためには、秋田の天然資材を肥料に使うことや品種選定が大切です。当初は、少量多品目で飲食店向けに特化して作っていこうと思った時もありましたが、品目を多く作りすぎると、その分一つ一つに手間暇をかけることができなくなり、美味しくない野菜もできてしまう。
ならば、ある程度品目を絞って、確実に美味しいものを作っていきたいと思い、そのおかげで「SENTEさんの大根がすごく美味しいから使いたい!」と、大根だけ買ってくれる県外のお客様もできました。大根から生まれた小さな繋がりや縁も大事にしていきたいと思います。

今後の展望は?

今後のSENTEとしての展望は二つあります。
一つは、モデルケースになるような農家になりたいということ、もう一つは、地域に還元できるような農業者でありたいということ。

農業は地域に就職するような意味合いが強い職業だと思っています。ですので、自分が学んできたことや経験したことを活かせるのであればと思い地元の高校で教育活動もしています。そういった活動を含めて地域に還元していきたいと思っています。

最後に、今後のレメデニカホに期待することは?

年に1~2回レメデニカホさんに食べに行きますが、見たことのない野菜の可能性を毎回見せてくれます。「ナスのこんな食べ方があるの?」って。古代米を上に乗せて焼いたり、パプリカを発酵させて塩に変えたり、なんじゃこりゃ?みたいなお料理を(笑)。

農業、野菜には、こんなに可能性があるということを毎回経験させていただいているので、今後も食の新しい可能性を導いてくれたらと思っています。

Interview&Text:KENICHI WATANABE, KIYOKA MURAKAMI(Remède nikaho)
Photograph:YASUFUMI ITO(Creative Peg Works)
Produce:TEPPEI HORII(PILE inc.)

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