にかほの放牧経産牛を目当てに、にかほに来てくれる人が増えて、この地域も潤うひとつのきっかけになりたい。［上の山放牧場／秋田県にかほ市］

農業を始めたきっかけは？

高校卒業後、二年間和牛農家で研修、20歳から家業を継ぎました。昔から牛がずっと家にいて、小学生の頃から「この先もずっと牛を飼っていきたい」と思っていました。
農業高校に進学し、農業経営者の話を聞く機会が多くなり、収入が安定していないところも少なくないことを知り、牛は飼いたいけど収入面をネックに感じ、農業はちょっとやりたくないなと思っていた時期もありましたが、その後さらに色んな経営者と関わらせていただく中で、牛でもちゃんとやっていけば収入も安定して、普通の暮らしができるだろうと思いました。

そして、何よりも牛の放牧場（山）を守りたいという思いも強くあって。

もしも牛がいなくなってしまうと、山はすぐに荒れちゃってあっという間に藪になってしまう。小さい頃から牛と遊びにいっていた思い入れのある場所を失いたくない、こういうところで仕事をしたいという自分の中の強い気持ちに気づき、農業をやろうと思いました。

家業を継いで思ったことや感じたことは？

今まで親がやっていたのは和牛の繁殖農家で、繁殖させて仔牛を産ませ、その仔牛を売るところまでで終わり。肥育したりもしないしその先の肉までは携わらない仕事でした。
僕の代から放牧経産牛という食肉までもっていく取り組みを始めてからは、今までの仕事とは全く変わったなという感覚がありました。それは牛に対してもそうですし、「“肉”という全く別の業界」というものに新しい発見もありました。

大体の和牛の生産現場では、輸入してきた穀物類を食べさせて太らせる“肥育”が主流なのですが、そこにとても疑問を感じていて。自分の所ではどうにかして、日本の土地、地域の資源を活かした美味しい牛肉ができないかということを模索したのが原点でした。

今までは市場に牛を売るまでの仕事しかしてこなかったので、屠畜のタイミングは他の誰か任せ。これからは、10年以上向き合ってきた牛の屠畜を自分で判断をするということ。それは自分にとってもの凄く大事な経験で、命に対する向き合い方が大きく変わりました。牛と向き合う時間が多くなったし愛情も大きくなりました。

食肉として送り出すことへの想いや感じたことは？

長い間愛情を注いだ牛だからこそ、それを料理する人、食べる人、価値をしっかり分かってくれる人に届けていきたいと言うのが大きく思うところですね。それには信頼関係がすごく重要なのかなと思います。

売れたら何でもいいわけではない、継続的にお肉の取引ができるのか。例えば、何年か前にBSEという牛の病気が流行った時、今まで買ってくれていたスーパーがお肉を買ってくれなかったということがあったと聞きました。
感染している牛はほとんどいないのに、健康な牛までもが風評被害で買わなくなる。そういうのは薄い信頼だなって感じました。その意味でも、価値をちゃんと分かってくれている飲食店の方とコミュニケーションを取りながら、強い信頼関係を築いていきたい、そこからまた新しい化学反応が起きて、個別の価値を提供出来たらいいなと思います。

今後の展望は？

今後は放牧経産牛だけで無く、今まで販売していた子牛を放牧場で草だけでお肉にする事にも取り組んで行きたいと思ってます。

放牧経産牛ではない黒毛和牛を完全にグラスフェッド（草主体で育てる事）で生産している農家は全国にほとんどいないので、挑戦していき、にかほの新しい魅力になればと思ってます。

最後に、今後のレメデニカホに期待することは？

そうですね。ミシュランの三つ星を獲得してもらって（笑）。

レメデさんは、にかほにとって貴重なお店だし、渡邊さんは貴重な料理人だと思っています。
食を通して、にかほを盛り上げていきたいと本気で思っている人なので、その想いがもっともっと日本中、世界中に伝わればいいなと思います。

Interview&Text：KENICHI WATANABE, KIYOKA MURAKAMI（Remède nikaho）
Photograph：YASUFUMI ITO（Creative Peg Works）
Produce：TEPPEI HORII（PILE inc.）