目の前の漁獲量だけにとらわれるのではなく、未来につながる資源を守ることが大事だと考えています。[第八十八兼丸/秋田県潟上市]

2024.07.04

生産者とのつながり vol. 9

秋田県潟上市

​伊藤 徳洋(兼丸水産)

【つながり 〜牡蠣〜】
秋田県潟上市生まれ
漁師という職業が世界一かっこいい職業なのではないかと思わせてくれる、内面も外面もかっこいい漁師です。
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漁師になったきっかけは?

父親が延縄漁(はえなわ)の漁師をやっていまして。俺が高校生の頃、父が新しく船を造って、本業の延縄漁を休んで俺の4歳上の兄と底引き網漁を始めたんです。
最初は分からないことばかりだったみたいで、毎日網を切らしては、それを夜中に修理をして出来上がったらまたそのまま漁に出て…と、2年くらい試行錯誤してやっている、そんな父と兄の姿をみて凄いなぁと思っていました。

自分は高校生の間、居酒屋の厨房でバイトをしていて、そこで包丁の使い方を教えてもらい、料理って楽しいなと感じていて。将来、父親や兄が獲った魚でお店をやれたら面白いだろうなって、料理の道に進んでみたいなという想いが生まれました。

俺が高校を卒業する頃には底引き網漁のことも分かってきて、徐々にやれるようになっていて。父親から「高校卒業したら、まず1年間兄の船に乗ってやってくれないか?1年間手伝って、その後のことはそれからまた考えればいい」と言われて。

船には小さい頃から乗っていたので全然苦じゃなかったし、むしろ好きだったので、ああ、いいよっていう感じで返事をしたんです。

しかし、高校卒業したらって話だったはずなのに…。高校の卒業式って3月じゃないですか?その前1ヶ月くらい学校が休みなんですけど、父親に「お前明日から休みだろ?明日から船に乗れよ」って言われてしまって。卒業前に、しかも、2月の荒波の中の鱈漁に出されて(笑)。なので、漁師を始めたのは、高校生の時なんですよ、俺。

船酔いが苦しくてもう嫌だなと思った時もあったり、最初はちょっと漁師って恥ずかしいなと思った時期もあったりしたけど、1年経っても漁師が面白くて、楽しくて、そこからずるずると…という言い方は変ですけど(笑)。そんな始まりから、今は当時よりも3倍も大きい15トンの船で兄と底引き網漁をやっています。漁師という仕事は凄いなぁと思って。今は、とても誇れるかっこいい仕事だと思ってやっています。

多分もう、一生漁師なんだろうなって思っています。

漁師になって分かったことや感じたことは?

魚も常に進化していくというか、漁具を改良していかないと、魚がそれに慣れちゃうんですよね。同じ漁具じゃダメなんです。ただでさえ海水温上昇で漁場が年々変わっていて、獲れる魚も変わってくるので。ただ単に網を掛けても魚は入らない。何かしら常にアップデートしていく必要があると思います。

うちの父親もまだ毎年漁具を変えていますし、うちらも網の作り方を毎回変えています。ガラッと変えるわけではなくて、今回はこうやってみようかなっていうくらいの改良ですが。
失敗することも多々ありますが、ダメだったら戻せばいいし、成功すればめちゃくちゃ面白い。そういうことに気づいて実行して俺たちに教えてくれたうちの父親は、本当に凄いなと尊敬しています。

朝早くから、漁師って大変ですね。

んー、そんなに大変だなと思ったことはないんですよね、実は。最初の頃は多分、朝起きるのが大変だったと思うけど(笑)。漁師って大変でしょうとよく言われますけど、あなたの仕事より楽だよっていつも言うんですよ(笑)。
もしかしたら一番大きなハードルだったかもしれない船酔いも、荒波の中からの始まりで強烈な船酔いを経験したおかげで、最初にそれをクリアしちゃっていたから。

1日の仕事はとてもハードでとても濃いけど、めっちゃ苦労したとか、難儀したと思うことはそんなにないですね。もしかしたら自分は漁師向きの人間なのかも。

漁師としてのこだわりは?

底引き網漁は、大量に魚が獲れるんですよね、それを安く売って大量に魚があるからお金が入るっていう、薄利多売に近いような漁法なんですが。だからか、ものがあまり良くないというイメージが魚屋さんについていて。俺、それがずっと嫌で。

底引き網漁でも、揚げたての魚は生きているんだから血抜きをすれば血は抜けるし、すぐ氷につければちゃんと締まるし。そういうのを俺は地道にやっているんだけど、魚屋はそれを分かってくれなくて。丁寧に処理している魚とそうでない魚の値段が変わらなかったりする。

うちは魚屋もやっているから特に分かるんですが、血抜きなどの処理をしっかり施した魚と野締めの魚を比べると本当に味が全然違います。その味の違いを知れば、値段が1.5~2倍になっても処理した美味しい魚の方をお客さんは食べたいと思ってくれると思います。

いいものを扱っている仲買人は分かってくれるのですが、そういう人はまだ少ない。底引き網漁の魚も丁寧に処理すれば、ものはいいんだよっていうことを、俺は頑張って広げていきたいと思っています。

レメデニカホでも毎年使わせてもらっている、とっくの岩牡蠣。
獲る際のこだわりなどを教えてください。

うちはこのボンベを使えるから、小さい牡蠣を避け、ものを選びながら時間をかけて獲れます。しっかり実入りしている牡蠣を獲って1~2日水槽で殺菌して出荷しています。

自分は素潜りをやったことがないから詳しくは分かりませんが、素潜りだと息が続く限りで獲らないといけないから、選んでいる余裕がなく小さいものでも獲ってしまうのかもしれないですね。

かといって、どこででもボンベを使って牡蠣を獲りに潜ってしまうと、資源が枯渇する恐れがあるんですよ。一時期、ボンベを使って牡蠣を獲る人がすごく増えて、十何人潜る人がいたかな。それでやっぱり獲り過ぎで数が結構減ってしまったこともあったんです。

俺は未来の海を守るために、ただ獲るだけじゃなくて、しっかりと品を見極めて漁をするよう心がけています。小さな牡蠣やまだ成熟していないものは獲らずに海に残しておきます。そうすることで、次のシーズンにまた大きくて質の良い牡蠣が育つんですよ。目の前の漁獲量だけにとらわれるのではなくて、未来につながる資源を守ることが大事だと考えています。こうして獲った牡蠣は、味も良くて品質も高いです。

今後の展望や夢は?

7月8月が底引き網漁が禁漁期間なんですけど、昨年その時期に秋田市でレンタルスペースを借りて飲食店をやってみたんです。目の前のお客様から魚の味や料理の感想など生の声を聞けるのが面白くて。本当にいつか自分のお店を持ってみたいと思いました。

その時は、メニュー開発とかワイン選別とか、ぜひお二人の力も貸してくださいね!約束ですよっ!

最後に、今後のレメデニカホに期待することは?

俺、本当にレメデの大ファンで!
ずっと、レストランでコース料理を食べるって、雰囲気だけで、格好つけに行くだけの道具だと思っていたんですよね。

それが、初めてレメデニカホに行った時、雰囲気はいいし、料理もものすごく美味しいし、何よりも自分の獲った牡蠣の料理とそれに合わせてくれたワインがまたすごく美味しくて!マジか!?ってなりました(笑)。コース料理はワインと合わせると、こんなに美味しくなるんだということを知り、それ以来、色々な店にコース料理を食べに行ったら絶対ワインを飲むようにもなりました。この料理に合うワインをくださいという風に。

あれは本当に感動しました!
これからも美味しい料理と美味しいワインを提供してください。去年は行けなかったので、今年はぜひ行きたいです。

Interview&Text:KENICHI WATANABE, KIYOKA MURAKAMI(Remède nikaho)
Photograph:YASUFUMI ITO(Creative Peg Works)
Produce:TEPPEI HORII(PILE inc.)

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